意地悪ばあさんと迷惑ばあさん

昔、サザエさんを描いた長谷川町子のもう一つの人気シリーズに、「意地悪ばあさん」という漫画があった。確か実写版もやってた。サザエさんは今でも続くギネス認定の長寿番組だが、意地悪ばあさんを知る若い人はもういない。

その時代はまだ、いたずら好きの子供なんかいっぱいて、そういう困ったさんを否定せず、 怒りながらも笑って許すゆとりがあったように思う。

この間バスに乗っていたら、ひとりのお婆さんがバスの停車する前に、ひょろひょろと立ち上がり、カートを押しながら前方に歩き出した。

運転手さんが慌てて、「座って!まだ座っててください!」と言い、すぐ横に座っていた女性も「危ない! 危ないから、座ってなさいな」と言ったが、全く聞かずによろよろと歩いて行った。

年寄りがバスの中で転倒すると大変なことになる。運転手は責任を問われ、救急車を呼ぶことになれば乗客は大迷惑だ。

なのにそのおばあさんは、あろうことか、ふふんと鼻で笑い「そんなん大丈夫やー」と言ったのだ。

その時、運転手や乗客のこめかみに、怒りマークがぴきっと浮き出る音が聞こえた。

もちろん私のこめかみにも怒りマーク。

これは意地悪ばあさんなんぞではなく、可愛げのない迷惑ばあさんだ。

自分は決してあのようにはならないぞ、とは思うのだが、もしかしたら自分の知らないうちに迷惑ばあさんになっているかも知れない。案外自分のことはわからないものだし。そう思うと少し自信がなくなってきた。

怒りますよ。