爪が怖い

10年以上前、美容院でカットしてもらっていたとき、頬の一番出ているところに何気にピリッと痛みがあった。
しばらくするとぴりぴりした痛みに変わったので、美容師さんが少し離れた隙に鏡に顔を寄せて見てみると、頬の皮膚が3~4ミリほど丸く剝がれていた。美容師さんの爪が皮膚に当たった時に剥がれたのだ。
剥がれた皮をもう一度貼り付けてみたが、痛みはましにならなかった。
美容師さんに言うと恐縮して、「オロナイン塗りましょうか」と言ってくれたが、お断りして自宅に戻った。
大したことはないと思っていたが、しばらくするとその部分が薄いシミになっていることに気づいた。それ以降、年々少しずつ濃くなっていき、現在に至る。加齢性のシミの中で一番目立つ存在になっている。
年数が経ってからでは苦情の言いようもないが、美容師さんは少し爪が長いかなという程度で、本人は全く意識していなかったに違いない。

それ以降、顔のあたりを触る仕事をする人たちについては、まず爪を見るようになった。そして長い爪の人はお断りすることにしている。

医療や福祉職では爪が伸びていることは許されないはずだが、最近は医院の受付など、ネイルをして伸ばしている人も見かける。そう言えばずいぶん前から、長い爪をきれいにネイルしている人が多い。しかも何やらゴロゴロしたものまで爪にデコレーションしている人もいる。

年を取ってくると爪の色が悪くなり、縦に線が入ってきたりと、若い頃のような桃色の爪ではなくなってくる。本来、ネイルというのは西洋の年寄りから若い女性に広まったものだと思う。短い爪にネイルするのを、フレンチネイルとか言うらしい。ネイルは構わないのだけど、長い爪が怖い。

家事には支障がないのか、家事をしないのかわからないが、男性でもたまに見るので、もう日本全体が貴族化しているのかも。ただ幼い子供をだっこしている女性がそんな爪をしているととても気になる。鳥や猫の爪がとがっているのは攻撃するためだ。人間は他人を傷つけないように爪が短いと聞いたことがあるんだけど、女は自分の身を守るために武器を持ったのか。

飲みに行った帰り、もう一杯ということで、食べログで遅くまで開いている店を検索して行った。まあ、はずれの店だったが、食べログなので仕方ない。

ウエイトレスの若いお姉さんがアイドルみたいな可愛い顔で、ミニスカートに短いニットのへそ丸出しルックだった。隣にいた若手のサラリーマンたちは色めき立って、ウエイトレスに「どっかの店で働いてるの?」と聞いた。この店のほかに、夜のお仕事をしてる店はないかと聞いたわけだ。しかし、その女の子のふわっとしたやさしい笑顔とは裏腹に、コップを持つのも不自由なくらい、長くて尖った爪には真っ黒のネイルが塗られていた。まるで映画に出てくる悪魔の爪だ。
リーマン諸君は全く気づかず、というか気にせずにやけていた。要するに若くて可愛ければいいのだろう。

あの女の子の真っ黒い爪はファッションではなく、女の子が内側に抱えていた地獄を見た思いがしたからか、今もなお思い出すことがあるのだ。

 

近所の公園で真っ白な鳩を見た。青く光るほど白かった。